私好みの新刊    20179

『野生のチューリップ』(たくさんのふしぎ20175月)

前嶋昭/写真・文 福音館書店

チューリップと言えば中世になって地中海地域で発見されて後オラン
ダで栽培
されて一躍有名になった植物である。チューリップの美しさに
酔いしれたチュ
ーリップバブルの時代もあった。日本でも各種の品種改
良がなされ,今も多種
多様な栽培種にあふれている。そのような美しい
チューリップを眺めていた著
者は「大むかしにまだ人が育てる前は、ど
んな姿だったのか」と興味を持った。

そして,今も野生のチューリップが咲いているというカザフスタンと
天山山脈
を訪れた。まず著者はカザフスタンの高地に出向いた。目的地
は標高
900mの砂漠地帯,ごつごつした岩場である。その岩場を登りつめ
ると…その先にポツンと黄色い
花が目に飛び込んできた。野生のチュー
リップだった。その先には,これが野
生種かと思えるほどカラフルな花
が咲きほこっていた。もちろんタンポポと見
間違えそうな小さな花もあ
る。著者はさらに天山山脈の西へ向かう。なんと乾
燥しきった荒れ地に
鮮やかな赤や黄色の大輪が出迎える。山上のお花畑だ。乾
燥地だけに葉
は丈夫で厚みを増し球根はしっかりとがれきにおさまっている。

チューリップはもちろん種(たね)ができて新しい子孫を残す。この
ような乾
燥地の荒れ地では種ができても花を咲かせる球根に育つのに10
年以上はかかる
という。1000万年余の命を受け継ぎ今も荒野の寒冷地で
美しく咲くチューリッ
プ,乾燥に耐える太い葉がしっかりと花茎を支え
ている。見るからにたくまし
いチューリップ,10年の歳月をかけて太陽
エネルギーを蓄え続けてきた球根の
力強さに感服させられる。 
                       
20175月 667

 

『かがやく昆虫のひみつ』  中瀬悠太/著・写真 内村尚志/絵  ポプラ社 

 まずは表紙のコガネムシの色合いにうっとりさせられる。ほんとにこんなに光

輝く昆虫がいるのだろうかと目を疑う。ぱらぱら本をめくると,なんと「輝く昆虫」

のオンパレードだ。たいていは中南米や東南アジアの熱帯(亜熱帯)に棲む昆虫の

ようだ。最初はコガネムシが出てくる。白銀色に輝く種もいればモスグリーンに輝

く種,赤と黄金色に輝く種もいる。体の場所によってさまざまな色を出す虹色クワ

ガタもいる。全身金色のうろこを持つ金色コガネもいる。羽根の場所によって微妙

に白が変化する日本産センチコガネもいる。次はカミキリムシの仲間、こちらも輝

くグリーンから赤銅色,ブルーと輝いている。次に出てくるのはタマムシの仲間,

日本いるヤマトタマムシがブルーの生地にオレンジラインで輝いている。海外のタ

マムシは赤と青混色の派手な種も多い。

ここで,やっと美しい色を出す昆虫についての解説ページがある。昆虫たちの羽

根などの微妙な色変化はどのようにして起きるのだろうか,その秘密は昆虫の羽

根にある。なんと,美しく輝くしくみは羽根の層状構造にある。羽根の構造が何

層にもなっていて,太陽光があたると光は分散されてそれぞれに美しい色を見せ

る。構造色と呼ばれている。ここには電子顕微鏡の写真も挿入されているが写真

が小さくて解像度が悪いのが難点。同じ構造色でも,ホログラムのように回折格

子状のものもある。そういえば煮干しの魚はいつまでも白銀を保っている。回折

格子の構造をもっている強みだ。他に,羽根にある一つ一つのりん片の結晶が輝

く昆虫,光の反射を押さえる構造を持つ昆虫もいる。一口に構造食と行ってもさ

まざまだ。後に,昆虫の持つすばらしい機能を技術開発に生かしている例も紹介

されている。まさに昆虫は生き物の王様である。

   20173月 1,500

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